私のおすすめの吟行地

阪本謙二

阪本謙二さかもと けんじ

「櫟」主宰 松山俳句協会会長

【ロシア兵墓地-ろしあじんぼち-】

【ロシア兵墓地-ろしあじんぼち-】参考

山沿いの短い急な坂を登る中腹に、異郷で亡くなった九十八柱のロシア兵捕虜の墓が整然と並んでいる。そのあまりにも整然と建ち並ぶさまが反ってもの悲しさを漂わせる。

この軍隊の方陣のように並んだ墓石を見ながら静寂の中で佇んでいると、捕虜や地元民への時空を超えた思いとは別に、対面の山の木々や花の色、風の音、鳥の声が、心に迫ってくる。じっと目を開き、耳を澄ましていると、その時々の自分に句にすべき何かが見えてくる。そこでそれに没頭する。仮にすぐに見えて来ない時でも、誰にも邪魔されることなくいつまでもそれを待つことが出来る。

狭い場所であるだけに、歩き回らず、じっと佇んで句作に没入するのに最適な場所だ。

【宝厳寺-ほうごんじ-】

【宝厳寺-ほうごんじ-】

子規は明治二十八年十月六日、ここの山門に腰をかけて「色里や十歩はなれて秋の風」の句を作った。色里からほんの少ししか離れていないのに秋風の吹く静寂の別世界を感じた。そして、現在も道後の賑わいから幾らも離れていないこの地に、その同じ静寂があると思う。

境内はいつも箒目も鮮やかに掃かれ、著名人の句碑や歌碑がさりげなく片隅に建つ。緑陰に腰を下ろし、涼しげに並んでいる飛び石や遠く瀬戸の海を眺める。裏山の墓地では、先人たちのつぶやきに時々鳥の騒ぎが混じる。

そして秋も深まり、境内に銀杏の降りしきる様は、これぞ一遍上人の教えと言うべく、金色の舞う遊行のひとときとなるのである。

踊りねんぶつ黄落のとめどなし(謙二)

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