【愛媛県伊予市】1250年の静寂、緑の宇宙〜藤縄之森三島神社で出会う『究極の苔美』に癒やされる〜


2026.01.26

はじめに

愛媛県伊予市中山町の深山にひっそりと鎮座する「藤縄之森三島神社(永木三島神社)」。ここは、1250年以上という気の遠くなるような歳月が、目に見える「色」となって現れている場所です。訪れる者を圧倒するのは、歴史の重みと、それを優しく包み込む深い緑の静寂。一度その境内に足を踏み入れれば、日常の喧騒は一瞬で彼方へと消え去ります。

【苔の宇宙】悠久の時を編む、極上の緑に抱かれて

この神社を語る上で欠かせないのが、境内を埋め尽くす圧倒的な「苔」の美しさです。石の大鳥居をくぐり、一歩足を踏み入れた瞬間に広がる光景は、まさに「緑の宇宙」と呼ぶにふさわしい神秘的な世界。参道の石畳から、古びた石灯籠、そして境内社の屋根に至るまで、厚みのあるビロードのような苔が、まるで生きている毛布のようにすべてを優しく、そして力強く覆い尽くしています。

これほどの苔が育つのは、この地が深い森に守られ、清らかな空気が常に循環している証拠。木漏れ日が差し込む時間帯には、苔の一葉一葉が水分を含んで宝石のように輝き、エメラルドグリーンのグラデーションが幾重にも重なります。それは、人工的には決して作り出せない、1000年以上の歳月と自然の呼吸だけが織りなせる芸術品です。

苔には周囲の音を吸収する性質がありますが、この境内はまさに「無音」が心地よい空間。自分の足音さえも緑のクッションに吸い込まれていくようで、感覚が研ぎ澄まされていくのがわかります。雨の日には、潤いを増した苔がいっそう色濃く艶を放ち、霧が立ち込めれば異世界に迷い込んだかのような幻想的な美しさに。この苔に囲まれて佇んでいるだけで、心が洗われ、細胞のひとつひとつが再生していくような深い癒やしを得られるはずです。ただ眺めるだけでなく、その場に流れる「緑の静寂」を肌で感じる時間は、現代人にとって何よりの贅沢。この極上の苔の絨毯を目にするためだけにでも、わざわざ足を運ぶ価値がここにはあります。

【一本鳥居の謎】600年前の未完のロマン

楼門の手前、静かな木立ちの中に佇む「一本鳥居(石鳥居遺構)」は、訪れる者の想像力を激しくかき立てるミステリースポットです。これは応永9年(1402年)、時の地頭・合田通基が武運長久を願い建立を試みたもの。しかし、現在残されているのは右柱の下部(地上高180cm)のみ。何らかの災厄で崩れたのか、あるいは完成を見ることなく歴史の渦に消えたのか、その真実は今も森の奥深くに眠っています。

苔に覆われたその無骨な石柱は、地元で「一本鳥居」と親しまれ、愛媛県の有形文化財にも指定されています。石材に直接文字を刻む「金石文」としても極めて貴重で、中世の祈りの形を今に伝えるタイムカプセルのような存在です。また、本殿の裏山にある石組みの跡は、古代の円墳ではないかとも言われています。数百年、数千年という単位で積み重なってきた歴史の断片が、境内の至る所に顔をのぞかせています。一本の柱が放つ圧倒的な存在感の前に立つと、かつての武将たちがこの地で抱いた野望や祈りが、風の音と共に聞こえてくるようです。

【知恵と生命の森】ムササビが見守る「八」の不思議

この神社は、豊かな自然と神話的な不思議が共存する「鎮守の森」でもあります。特筆すべきは、拝殿の左横に立つ巨大なスギの木。その幹に空いた「洞(うろ)」には、なんと野生のムササビの親子が住み着いています。夕暮れ時、あたりが藍色に染まる頃、運が良ければ大きな瞳を輝かせたムササビが顔を出し、森の木々へと滑空する幻想的な姿を拝めるかもしれません。まさに神の使いとして、この地を守っているかのようです。

また、境内には「八」という数字にまつわる不思議な符合が散りばめられています。拝殿横に立つ、幹が八股に分かれた大変珍しいヒノキ。そして、あらゆることを聞き分ける「天の耳」を持つ聖徳太子(上宮之厩戸豊聰八耳命)を祀る「八耳神社」。この八耳神社は学問の神様としても信仰され、難関突破を願う受験生が静かに手を合わせにやってきます。森の生命力、歴史のミステリー、そして不思議な数字の重なり。そんな謎解きを楽しみながら境内を散策すれば、いつの間にか日常の悩みなどちっぽけなものに感じられるはずです。

おわりに

藤縄之森三島神社は、ただ古いだけの場所ではありません。そこは、苔むした石畳が語りかける歴史の息遣いと、ムササビが飛び交う生命の鼓動が交差する、唯一無二の聖域です。かつて大洲藩主の代参が通った旧街道の趣、そして戦国武将たちの切なる願いを秘めた一本鳥居。それらすべてを包み込む深い緑の静寂は、慌ただしく過ぎ去る日常の中で、私たちが忘れかけていた「心の平穏」を取り戻させてくれます。

ここを訪れるのに、特別な理由は必要ありません。苔に差し込む光の美しさに目を奪われ、森の冷涼な空気を胸いっぱいに吸い込む。ただそれだけで、心の中に積み重なった疲れが、スッと消えていくのを感じられるでしょう。季節ごとに表情を変え、訪れるたびに新しい発見を与えてくれるこの鎮守の森は、いつでも変わらぬ優しさで私たちを迎え入れてくれます。愛媛の山あいに息づく、この神秘的な「苔の迷宮」をぜひ一度、あなた自身の足で歩いてみてください。一歩ごとに深まる静寂と緑の癒やしが、あなたの訪れを静かに待っています。
記事投稿者:かず

記事投稿者:かず

ひめ旅部のかずです。生まれも育ちも愛媛県は伊予市。「伊予の本気」をお届けできるよう県内各地に出没中です。ひめ旅部の記事をきっかけに、カメラを持ってお出かけしていただけると嬉しいです!きっと、あなたの知らない愛媛が待っている?!