ふらりと伊予市へ。古代の登り窯「かわらがはな」と佇む石地蔵に出会う、ノスタルジックな癒やし旅


2026.09.03

はじめに:日常を少し離れて、静かなタイムトラベルへ

日々の慌ただしさから少し距離を置きたくなり、私は愛媛県伊予市の市場(いちば)エリアへと一人旅に出かけました。松山市街から車を走らせ、JR向井原駅近くの国道56号を折れると、あたりは一気にのどかな空気に包まれます。見上げれば、頭上を横切る松山自動車道の伊予高架橋が美しい曲線を描き、近代的な建造物と緑豊かな里山の風景が溶け合っていました。今回のお目当ては、約1300年もの時を超えてひっそりと眠る「かわらがはな古代窯跡(かまあと)群」と、道端で静かに佇む「市場の石地蔵(いしじぞう)」です。車のドアを開けると、ふわりと草木の匂いを含んだ心地よい風が頬をなでていきます。

1300年の息吹を今に残す「かわらがはな古代窯跡群」との出会い

車を停め、山肌へと続く細い小道を少し上っていくと、緑の木立の中にぽっかりと大きな口を開けた3基の窯跡が姿を現しました。「市場かわらがはな古代窯跡群」です。奈良・白鳳時代(8世紀前半)に造られたとされる登り窯で、驚くべきことに古代の窯の「天井部分」が今もそのまま綺麗に残っています。全国的にも非常に珍しい状態だそうです。斜面に沿ってトンネルのように掘られた内部を覗き込むと、ひんやりとした静寂が漂っていました。かつてここで寺社の屋根を飾る重弧文の瓦や須恵器が焼かれていたのだと思うと、古代の人々の熱気や息づかいが肌に伝わってくるようで、不思議と胸が熱くなりました。

急斜面に刻まれた古代の技術と、ガラス色に輝く壁の神秘

窯の内部はじっくり見るほどに興味深く、自然の傾斜を利用した40度以上の急勾配に、階段が何段も美しく刻まれています。1000度を超える猛烈な高温で瓦や土器を焼き上げるため、このような急な構造が必要だったのだとか。目を凝らして側壁や天井を見てみると、激しい炎の熱によって粘土が溶け、ガラス状の深いコバルト色に変化しているのが分かります。遠い大陸から伝わった高度な技術と、地元の良質な土や薪、水が出会って生まれた古代のクラフトマンシップ。木漏れ日が差し込む薄暗い窯の中でその神秘的な壁面を見つめていると、時空を超えたものづくりの情熱に触れたような深い感動に包まれました。

線路の傍らで心を満たす、穏やかな「市場の石地蔵」

古代窯跡を後にして国道近くへ戻り、ラーメン豚太郎の手前の道を線路沿いへと下りていくと、小さな地蔵堂が見えてきました。そこに安置されているのが、鎌倉中期(1275年〜)の作とされる「市場の石地蔵」です。高さ89センチほどの安山岩で作られたお地蔵様は、蓮の花の台座に座り、静かに目を閉じて瞑想の姿をとっています。ガタンゴトンと時折響く予讃線の電車の音と、周囲の静けさ。そっと手を合わせてお顔を見上げると、700年以上もの間、この地を行き交う人々を見守り続けてきた優しい温もりを感じ、張り詰めていた心のトゲがすっと溶けていくのが分かりました。

おわりに:心洗われる歴史の散歩道を歩いて

伊予市の豊かな自然の中に寄り添う古代窯跡と石地蔵。観光地として派手に飾られているわけではありませんが、そこには確かに、長い年月をかけて紡がれてきた穏やかな時間が流れていました。肌をなでる風の心地よさ、鳥の声、そして何百年、何千年も前の祈りや情熱の痕跡に触れるひとときは、疲れた心を芯から解きほぐしてくれる極上の癒やしです。あなたも次の休日は、ふらりと一人、この静かな歴史の散歩道へ足を運んでみませんか。きっと、普段は見過ごしてしまうような優しくて温かな時間に巡り合えるはずです。
記事投稿者:かず

記事投稿者:かず

ひめ旅部のかずです。生まれも育ちも愛媛県は伊予市。「伊予の本気」をお届けできるよう県内各地に出没中です。ひめ旅部の記事をきっかけに、カメラを持ってお出かけしていただけると嬉しいです!きっと、あなたの知らない愛媛が待っている?!